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2007年2月 4日 (日)

トンデモない米国医療システム

医療崩壊という言葉は、いくつかの意味で語られているように思います。ひとつは、現在の公立病院を中核とした医療体制の崩壊であり、もうひとつは、国民皆保険制度という医療制度の崩壊ですね。両者は密接に関係していますが、現に進行しているのが前者で、医療費抑制・混合診療解禁がもたらすものが後者でしょうか。後者の目指すところは米国の医療制度だと思われます。

さて、世界一高いとされている米国の医療費ですが。

米国の医療は崩壊寸前である。日本の年金より危機的状況。医療費用は2004年の1年間だけで総額1400億ドル増加した。実に15兆円超だ。一体全体どうしたら、1年間で15兆円も余計に使うことができるのかと頭をひねるばかり。

この根本的問題は「アメリカの医療保険の中途半端な半官半民体制」にある。

アメリカには公的保険と民間保険が混在する。「貧困層」「65歳以上」は公的保険の対象。それ以外の人は民間の健康保険を購入する。民間の保険の選択肢は全国に1000以上もある上、個々の病院や医師は、10を超す保険会社と契約していることもあり、保険求償処理のための事務コストは非常に高い。「救急外来で1時間診療したら、1時間の事務処理作業が発生する」と試算されている。日本と違って事務手続きにとんでもない間違いが起こるアメリカゆえ、「間違い訂正コスト」もバカにならない。

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医療費負担は企業の競争力にも影響が出ている。週に20時間以上働いた人に医療保険を提供するスターバックスでは、2005年には医療保険費用がコーヒー豆代を凌駕した。退職した社員の医療保険も負担しているGMでは、車1台作るコストに、医療保険費用が1500ドル分が上乗せされる。

「なんて絶望的医療システムだろう」と常々思ってきたのだが、そんなアメリカで最近誕生しているのが、異業種の医療サービス参入による「ミニクリニック」だ。ウォルマート、ターゲットといった大手小売チェーンや、ウォルグリーンなどのドラッグストアチェーンが、次々に店内に簡易クリニックを設置するトライアルを始めているのである。従来型の病院では一回あたり110ドルかかった診療を、40-60ドル程度とほぼ半額で提供。行うのはちょっとした怪我や風邪、予防接種といった簡単な医療行為のみで、少しでも問題がある患者は一般病院に行くように指示する。予約は必要なく、待ち時間があっても、併設店舗内の買い物で時間をつぶすこともできる。保険をもっていればその適用も可能だし、なければキャッシュで支払うこともできる。

「On Off and Beyond: トンデモない米国医療システムからイノベーションが生まれるのか」,渡辺千賀,February 02, 2007

”「改革」のための医療経済学”(兪 炳匡,メディカ出版,2006)によれば、医療費の大部分を占めるのは、いわゆる急性期医療(緊急・重篤の医療)費のようです。これは米国・日本を含む、先進国の医療費で共通の特徴のようですね(p.174)。医療費高騰の原因はこの急性期医療の部分にあると思われ、「ミニクリニック」で軽症の治療・予防を行なっても、医療費抑制にはほとんど繋がらないように思います。

医療保険については、多数の保険が乱立することによる事務経費の増加もありますが、同時にリスクプール(保険加入者数)が細分化されて、保険の目的たるリスク分散の効率が低下することも大きいと思います。これが、国民皆保険がもっとも望ましい形であるとされる所以のようです(p.202)。

米国の医療保険制度が今のままでいいと思っている米国人など一人もいないと言ってよい。GDPの15%にも相当する,世界一高い医療費を払いながら,無保険者が4500万人(2003年,米国国勢調査庁調べ)と,国民の7人に1人にも達する現行制度を容認するなど,それこそ正気の沙汰ではないからだ。全米科学アカデミーによると,医療へのアクセスが遅れるなどで,「無保険」であるがゆえに,毎年1万8000人の国民が命を落としているとされ,事態の深刻さは尋常ではない。

医学書院/週刊医学界新聞 【〔連載〕続・アメリカ医療の光と影(63)(李啓充)】 ( 第2640号 2005年7月4日)

米国でも民主党は皆保険導入を目指しているようですが、大手病院チェーン・民間保険会社が必死に抵抗するのでしょうね。

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著者:兪 炳匡
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