« 年金と保険 | トップページ | 汎用機からPCへ、バッチからオンラインへ »

2008年5月30日 (金)

IPAでの学生討論

この企画って、実は非常に好評(面白いという意味で)なのではないか、と思いました。

CSKの有賀氏は「若い時に一つの仕事をアサインされても全体なんてわからない。同じ仕事している3人に『何をしている?』と聞いたら「石を積んでいる」「門を作っている」「寺を作っている」という別々の答が返ってきたという話があるが,全体をとらえる努力をすることがやりがいにつながる。やりがいは自分で作っていくもの」と話す。しかし学生は「忙しいから教えてやれないという否定的なマネジャと,ビジョンを示すマネジャでは組織のパフォーマンスがまるで違ってくるはず」と反論。有賀氏は「言いたかったのは,自分の回りでやっている自分の担当と関係のないことも勉強しろということ。そうすれば成長する」と補足した。

「IT技術者はやりがいがある仕事か」---学生とIT産業のトップが公開対談 (ITpro)

ちと噛み合っていない感じですね。仕事全体の目的を教えることと、それを自ら主体的に学ぼうとすることとは、両立しますから。有賀氏が語ったのは、おそらく全体の目的を知ることでモチベーションが出てくる、というもので、教えるのか学ぶのか、という話は脇道ですかねえ。

ロスアラモスで仕事につかされたこの若者たちが、まずさせられたことといえば、IBMの機械にチンプンカンプンの数字を打ち込むことだった。しかもその数字が何を表しているのかを教える者は誰一人いなかったのだ。当然のことながら仕事は一向にはかどらない。

【略】

そこで僕が、このグループのとりくんでいる仕事の内容や目的について、ちょっとした講義をすることになった。さて話を聞き終わった若者たちは、すっかり興奮してしまった。「僕らの仕事の目的がわかったぞ。僕らは戦争に参加しているんだ!」

”下から見たロスアラモス”, 『ご冗談でしょう、ファインマンさん 上』, 岩波現代文庫, p.217

以下の箇所は討論中も盛り上がったそうなのですけど。

IPAの西垣氏は「仕事をコツコツ続けていれば見えてくる」と話す。「まず10年間は泥のように働け」という,伊藤忠商事 元社長 丹羽宇一郎氏の言葉を紹介した。丹羽氏が新入社員に語ったという言葉で「まず10年間は泥のように働いてもらう。その中で周囲を思いやる力をつける。次にマネジメントの勉強をして,最後の10年はマネジメントを大いにやってもらう」というもの。

しかし学生からは「10年耐えられる人もいるかもしれないが,心が折れる人もいる」「10年たてば環境や必要なスキルは変わっているのではないか」と反論。「10年我慢して働くという人は挙手して」という司会の呼びかけに,手を挙げた学生はいなかった。

「IT技術者はやりがいがある仕事か」---学生とIT産業のトップが公開対談 (ITpro)

もう少し突っ込んだ内容があってもよさそうですよね。これだけですと、学生たちの考えがよくわかりません。

  1. 10年も馬車馬のように働けない
  2. 下積みで10年は長すぎる
  3. 同じ会社に10年もいられない
  4. そもそも10年も働きたくない

西垣氏の発言内容からすると、10年現場で一兵卒として働き、次の10年で(中間管理層で)マネジメントを学び、最後の10年は経営者(取締役)として働く、ということのようです。まあ、日本企業の会社員の一般的なキャリアパスですよね。こうした日本企業的キャリアパスに対する反発、ということなのでしょうか。

あと、おもしろかったのは東京情報大学の方が質問した「私はずっと技術者のままでいたいのですが、何がおもしろくて経営者になろうとしたのですか?」という質問。産業界側の人たち全員が「おもしろそうと思って経営者になったわけじゃない」と答えていたのがおもしろかった。向さんの「自分でやりたいことをやろうと思ったら経営者になるしかなかった」という答えが多分本質なのだと思う。有賀さんのある意味意地悪い質問も意地悪ジジイぶり全開で素敵だった。しかもそれをかわいい女学生に言うというのがたまらない「技術者のまま行かれたら良いと思いますよ。主任技術者、執行取締役員待遇技術者とね。ただ、技術者であるためには常に最新技術の半歩先にいなければならない。それができるのであれば技術者で一生を通すなんて素敵じゃないですか。」

IPAX 2008を見に行ってきた (発声練習)

日本企業的キャリアパスというのが、「雇用の安定」というドグマの上に築かれている、という点も考えないといけないですね。逆にいえば、雇用の安定を捨てれば、「ずっと技術者」でいることは、今でも可能だと思います。企業に所属せずに、フリーで仕事をすれば良いのではないでしょうか。

話題は,企業が重視するスキルと,学校が重要視して教育しているスキルのギャップに移った。IPAの調査によれば,IT企業が大学教育に期待するものは,1位が「システム・ソフトウエア設計」,2位が「文章力」,3位が「チームワーク」。「1位以外はコンピュータ・サイエンスに関係ない。これは日本の初等教育の失敗を示している」(CSK有賀氏)。

この点に関しては、別にソフトウエアに限った話でもないと思いますけどね。「初等教育の失敗」というのは、ちと違うと思います。

設計者が下す決定のうち、自分たちが膨大な時間を費やして学校で学んだ計算の類に基づいてなされるものはわずかの割合しかないということを知るのは、多くの場合、学生にとっては衝撃的である。

”工学設計に関する報告”(1981), 『技術者の心眼』(平凡社 1995)より孫引き

文書力・コミュニケーション能力が上位にくるのは、そもそもソフトウエアの設計というのが、未だ定式化されていないこととも関係しているように思います。実際、どうやって仕様を伝えるのか、毎回頭を悩ませているのが現状ですからね。

「学生時代に学んでおいてほしいこと」というテーマでは、「よく調査などでは文書作成能力やコミュニケーション能力が上位に上がるが、これはIT業界に限った話ではない。できて当たり前で、それができていないから企業側が苛立っている証拠だ。高校までに学ぶべきことで、どちらかというと日本の教育制度の問題」(有賀氏)と主張。

「10年は泥のように働け」「無理です」―今年も学生と経営者が討論 (@IT)

もちろん、どんな業界であれ、チームで仕事をする以上、”コミュニケーション能力”が要求されるのは当たり前の話ではあるのですが。

鵜飼 ―― Googleは採用時に、チームとして働ける人物かどうかをしっかり見極める会社なんで、「変わった人」はいてもコミュニケーションに困るような偏屈なエンジニアはいませんね。

”Googleの開発現場”, システム開発JOURNAL Vol.1 (2007), p.130

伝え聞くところでは、GoogleやMicrosoftは、採用面接試験で、相当高度なコミュニケーション能力を要求しているみたいですね。

MITに集まっている人たちはとても優秀で、こちらがつたない英語で伝えようとしたことの意図を汲み取る能力に長けています。

【略】

その証拠に街に出て、とくに子どもと話そうとしたとき、通じなくて非常に苦労しました。

畑村洋太郎 著, 『畑村式「わかる技術」』, 講談社現代新書 (2005), p.43

コミュニケーション能力の高さ、というのは、「スマート」であることの要件の一つなのでしょう。

|

« 年金と保険 | トップページ | 汎用機からPCへ、バッチからオンラインへ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/80472/21275444

この記事へのトラックバック一覧です: IPAでの学生討論:

« 年金と保険 | トップページ | 汎用機からPCへ、バッチからオンラインへ »