2008年8月27日 (水)

健保組合解散の是非

【Q】 このままいけば,健保組合がなくなってしまわないか?

【A】 なくなったとして,具体的に何が悪い?

健保組合が解散する (岩本康志のブログ)

全国に 4,000 以上もの健康保険組合が存在している、ということについて、問題とする声がないのはなぜなのでしょうかね。これを問題とする立場からすれば、健保解散・政管健保への移行は、むしろ「望ましい」ことなわけですけども。

厚生労働省 第15回医療経済実態調査の報告(平成17年6月実施) 保険者調査 より抜粋:

制度 政府管掌健康保険 組合管掌健康保険 船員保険 共済組合 国民健康保険 合計
市町村 組合
保険者数 1 1,584 1 76 2,531 166 2,697 4,359

健康保険組合を集約して、例えば、年金と同様に、「被用者」、「公務員」、「自営業その他」の3つにするとか、いっそ1つにまとめてしまえば、保険運営の効率は高まるでしょう。現在、保険間の財政調整に使われている拠出金も不要になりますね。

例えば、三重県では世帯の79%で負担が減少するとの試算もあり、一律に負担増になるとは言えないし、5倍とも言われていた市町村国保間の大きな格差は、広域連合にすることで逆に2倍程度まで縮まるとされる。

後期高齢者医療制度 冷静な議論を望む (おのざき耕平)

後期高齢者医療制度にしても、今まで市町村単位に運営されていた保険を、広域連合に集約することで、保険運営が効率化される、ということは前提とされているわけでして。

日経新聞などは、「医療の非効率」をさかんにいいつのっていますが、なぜか健康保険運営の非効率性について取り上げることはないですね。医療の効率化ということであれば、健康保険組合の統合が一番効果がありそうに思うのですがね。

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2008年7月11日 (金)

診療報酬削減で保険者は黒字

国庫負担 4兆961億円 を含めての「黒字」ではあるわけですが。

調査では、保険者全体の経常収支差が4192億円の黒字であることが明らかになった。組合健康保険は2372億円、政府管掌健康保険も1117億円の黒字で、国民健康保険は323億円の赤字だった。

保険者黒字は医療費抑制の結果 - 日医 (医療介護CBニュース)

”「中医協・医療経済実態調査(保険者調査) -平成19年6月実施- 」について (社団法人日本医師会)]”1 という資料に、平成18年度の保険者決算が載っています。よく知られているとおり、国庫負担はじめ税金の大部分は、国民健康保険に投入されていますね。

しかし、

政管健保も1,117億円の黒字であり、積立金が4,983億円ある。「肩代わり」してもらう必要があったのだろうか。

としながら、結論として、

平成20年度当初予算における政管健保の国庫負担「肩代わり」案のようなことは、今後も前向きに検討されるべきとの考えを示した。

というのは、何か一貫していない感じですね。診療報酬の削減ではなく、保険者側の財政調整で、医療費抑制に対処してもらいたい、ということの婉曲表現でしょうが。確かに、保険者全体で 4192億円 の黒字が出ているのなら、例の 2200億円 の「医療費削減目標」は、保険者側の財政調整だけで達成できそうですよね。

「肩代わり」に関しては、同じ被用者保険ということで、政管健保にしたのか、あるいは、市区町村単位に組合がある国保より、社会保険庁が一元管理している政管健保の方が事務処理が簡単だから、といったところでしょうか。国庫負担が減らせれば、何でも良いということなのでしょう。


1. http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20080709_4.pdf

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2008年5月20日 (火)

天国と地獄、または、この道はいつか来た道

なんでそんなに医者通いさせるのか不思議に思っていたところ、母親から理由を聞いてちょっと複雑な気持ちになりました。

「練馬区では15才までの子供は医療費が全額助成、つまりタダになったからよ」

老人医療ばかり騒がれているが、子供医療の「不平等」な現実はどう? (木走日記)

それもこれも、無料化が悪いんだと思う。ハンバーガーとステーキがどちらも無料なら、たいていの人はステーキを求める。それが当たり前になれば、無料でフルコースが出ないのはおかしい、となる。そもそも小児科医がいない。なけなしの小児科医を酷使してさらに減る悪循環。

政治の人は現状を見ずに、少子化対策と言って、無料化する。

小児科無料化で起きること (haohao_xの日記)

医療費無料化が利用者のモラルハザードをもたらす、ということは、1973年の老人医療費無料化で、「実験済み」なのですよね。当時、行き過ぎた受診、病院待合室のサロン化、社会的入院など、マスコミに取り上げられて、大々的にネガティブ・キャンペーンが行なわれたようでして。それが、現在の療養病床削減や、後期高齢者医療制度を支持する世論を、いくらか作り上げているようにも思えます。

そうしますと、小児医療無料化の果てには、マスコミが次のようなキャンペーンを行なうかもしれませんね。

「バカ親のあきれた受診実態!! 〜 医療を崩壊させる親たち」

もっとも、小児科というのは、もともと不採算の診療科のようですし、財政に与えるインパクトは小さいのかもしれません。老人医療費無料化のときには、医療費増大が政府に問題視されたがゆえのマスコミのキャンペーンでしょうし、財政的なインパクトが大したものではないのなら、政府も問題視せず、マスコミも取り上げないかもしれませんね。

ただ、医師が去っていくことで、崩壊が進むばかりでしょう。今の子供達が親になる頃には、わが子を医師にかからせたくとも、かからせられなくなっているかもしれません。親の因果が子に報う、というのとは少し違いますが。

昔老人で今小児、というわけですが。もともと、医療を最も必要とするのが、老人と小児・乳幼児ですからね。両者の医療制度が崩壊すれば、国民医療の崩壊といって良いのではないでしょうかね。

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2008年5月 4日 (日)

”自然が一番”とか

ある宣言 - 新小児科医のつぶやき のコメント欄より。産科の苦境に関連して、ときどき、出てくる話題のようですが。

日本での分娩はなぜ『手なりでマージャンを打つ』ような自然分娩ばっかりなんでしょうか?シンガポールでは(他の海外でもそうらしい)、計画出産が常識化しています。分娩を9時ー17時のレンジに入れるよう、出産予定日の前日の夜に入院し、翌日全スタッフ(麻酔医などの専門医たち)の揃っている時間帯に出産させています。これだと、万一緊急事態が発生しても、助かるリスクが上がる、というのが理由の一つで、もう一つはお産のために夜中にスタッフを取られない=>他の事故などの対応に人的資源を振り分ける、という意味合いがあるそうです。

tora さん (2008/05/04 17:47)

計画出産はおっしゃるような合理的な思考は無視され、「医者の都合で分娩時間を決められてしまう。赤ちゃんの誕生日が決められてしまう。」とのたまう患者の家族団体がいてこれがねえ 結構世論を引き付けています。産科医個人が疲労困憊の末に起こってしまう不測の事態というのは本邦の国民の理解を超えています。

Bugsy さん (2008/05/04 18:24)

”自然が一番”とかのたまう方々にお勧めの書籍は、文学ですと、『蠅の王』とかですかね。 山本七平氏 『日本はなぜ敗れるのか − 敗因21カ条』 をあわせて読むとベターかもしれません。

... 「餓鬼」の絵に描かれている「者」の、あの独特の目つき、挙止、体形は、すでに人間のものではない。ああいう相貌を描いた人こそ、本当のリアリストであろう。

だが人間はなかなか本当のリアリストにはなれない。そのため、あの「餓鬼」の絵は空想の産物と思い、一方では平気で「自然に帰れ」などといい、そしてそういうスローガンを掲げれば、本当に自然に帰れると思っているらしい。そのくせ、ピアフラの写真を見て、「かわいそうだ」という。これはまことに奇妙で、空想的というより妄想的、支離滅裂的発想である。

そしてそういうことをいう人の話を聞いていると、言っていることは結局、現代の資本主義的生産物の恩恵だけは十分に供与されながら、自然的環境の中で生活したい、簡単にいえば、自然的環境の中で冷暖房つきの家に住み、十分な食糧と衣料がほしい、ということにすぎない。

だがそれは、最も不自然な生活だから、それを自然と誤解しているいまの日本人が本当に自然状態に帰らざるを得なくなったら、おそらく全人口の七割くらいは、生存競争に敗れて死滅してしまうであろう。自然には、人間を保護する義務はない ――― ということは、自然状態にかえった人間も、ほかの人間を保護しないということである。

山本七平氏, 『日本はなぜ敗れるのか − 敗因21カ条』, 角川書店, 2004, p.236

フィリピンはルソン島で、”自然に帰る”ことになった日本軍の兵士たちは、食糧を手に入れるために、現地でありとあらゆる犯罪を犯した末、友軍同士互いに殺し合い、その肉を食うという行動へと追い詰められるわけでして。結局、人間が人間でいられるのは、文明の中にあってこそで、”自然に帰った”人間はもはや人間ではない、ということでありましょう。

人間はもはや自然に帰ることができないことを知っているがゆえに、自然に対し憧憬の念を持つのでしょうけどね。ノスタルジーはノスタルジーのままにしておくべきでしょう。

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2007年12月19日 (水)

診療報酬改定と医療経営の不思議

日経新聞の診療報酬『本体部分』引き上げ( 全体では下げ )の記事ですけど、かなり作為的ですね。

 政府・与党は十七日、来年度予算で医師の技術料である診療報酬の「本体部分」を〇・三八%引き上げると決めた。・・・

【略】

本体部分を引き上げる一方、薬価は一・二%引き下げるため、 診療報酬全体では〇・八二%の引き下げとなる。

政府・与党は、中小企業の社員が加入する政府管掌健康保険(政管健保)の国庫負担を大企業の健康保険組合などに肩代わりさせることで財源を手当てする。 医師の収入増の財源をサラリーマンらが事実上負担する。

『診療報酬0.38%上げ』, 日本経済新聞, 2007年12月18日朝刊1面

政管健保の国庫負担肩代わりに対する、大企業の恨み節といった感があります。

ちなみにいままでの診療報酬改定率は以下のとおり。

2002年 マイナス2.7%
2004年 0%
2006年 マイナス3.16%

2002年の診療報酬改定の報道に接したときには、こんな簡単に価格を引き下げて大丈夫なのか、と思いました。当時は、”医療崩壊”という言葉も知らなかったわけですが。医療機関は、この値段でやっていけるのかどうか、ということは考えていました。誰でも考えてみると不思議に思うのではないかと思います。

当時思ったのは、日本の”商習慣”からして、技術料は大した値段ではなく、間違いなく赤字だろうと。まあ、これは、窓口で払う診察料の三割負担やら、勤務先の健保から来るレセプト請求の内容(確認するよう求められる)から、想像のつくことではあります。

例えば、旧来のメーカーなんかのやり方ですと、製品本体の価格に、据付費、保守費などの技術サービス料分を、あらかじめ上乗せしておいて、技術サービス自体は、無料か採算度外視の値段で提供、という形であったかと思います。それで、国産メーカーの製品というのは、妙に値段が高かったりしたわけでして。

モノを売って、技術料は”サービス”、というのが、よくあるパターンなんですよね。もちろん、本当にこのとおりですと、利益なんて出せませんので、どこかしらでその分を取り返すようになっているわけです。

医療の場合ですと、”検査漬け・薬漬け”という、昔から言われていた話がありますね。これは、技術料だけじゃやっていけないから、検査機器やら薬やら、現物のあるもので、技術料の赤字を取り返す、という構図になっていたんじゃないかと。そのような風に漠然と考えていました。とはいえ、検査やら薬価差益やらで、医療機関がそんなに儲かるとも思えませんでしたけど。

むしろ、技術料分を引き上げることで、医療機関が、種々の”モノ売り”から脱することができるようにすべきではないか、なんてことを考えていました。

まあ、その後、結局、医療機関はやっていけてない、ということがわかったわけですけどね。

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2007年11月18日 (日)

”医療崩壊マップ”更新しました

医療崩壊マップ を更新しました。
「勤務医 開業つれづれ日記」さんの最新の一覧を反映しています。

【産科 休止一覧 6 】 日本全国 今後の崩壊予定

マスメディアも似たような特集をやるようになっていますし、もういいかなー、と正直考えていたのですがw 「勤務医 開業つれづれ日記」さんが、お忙しいなか、メンテを続けていらっしゃいますので。ネット上の資料として、使ってくださっている方も、まだいらっしゃるようですしね。

マップのプロット作業は、先週には終わっていたのですけども。それだけですと、何なので、Googleガジェット化もやってみました。

以下から、ガジェットを追加することができます。

自分のサイトにガジェットを追加

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2007年10月 7日 (日)

”効率化”は問題解決には使えない

医療に関して、非効率な部分を改善して効率化すれば、問題は解決する、という向きがあるようですが。まあ、誰かがさぼっているから、誰かが不正しているから、問題がおきている、と考えるのは人の常なのですかね。

 アメリカの医療くらい金がかかるようになると、自然な反応としては、だれか - 保険屋か、民間病院の院長か、製薬会社か - が私腹を肥やしているにちがいないってことになる。そして疑問の余地なく、医療業界には不当に値をつりあげていたり、システムを悪用している人間はいるよ。だってさ、医療はアメリカ経済の13%を占めていて、直接間接に最低でも1400万人を雇ってるんだもん。そりゃ最高から最低まで、ありとあらゆる種類の人間行動が出てくるわな。

 でも、私腹を肥やすのをやめれば、医療問題はかなり解決されるだろうか? いいや。余計な儲けはそんなに多くないし、あってもあまり手のうちようがないんだ。

ポール・クルーグマン 著, 山形 浩生 訳, 「クルーグマン教授の経済入門」, 日経ビジネス人文庫, 2003, p.120

”銀の弾丸はない NO SILVER BULLET ”- 何かプロセスの効率を劇的に改善する方法などは、存在しないし、もしあるなら、とうの昔に実施されているでしょう。

そもそも、”効率化”というのは、全体の十数パーセントも改善できれば、特大ホームランというような世界ですからね。こういうのは、平時において、地道に - 毎年コンマ数パーセントくらい - 改善をしていくものであって、”問題”となっている時点で - それも傾きかけているようなときに、対策として持ち出すようなものではないでしょう。

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2007年9月14日 (金)

社会保険料はなぜ累進料率にならないのか

昨日の記事の続きです。

イギリスのように税金を財源とすれば、国民全員から累進的に徴収できるが、社会保険方式では所得のレベルとは無関係に同じ割合で保険料が徴収され、所得が一定レベル以上になれば定額となる。

池上 直己, J.C.キャンベル 著,  「日本の医療」, 中公新書, 1996, p.91

なぜ、社会保険方式では、累進的に徴収できないのでしょうか?

かつて、政府の人間はこう言っていた。「あなたの払った保険料は、ほかの人に使われるのではありません。あなたに戻ってくるのです。だから保険なのです」。

「年収150万円と3000万円で“税率”が同じ国」, 構造改革をどう生きるか(第58回)[森永 卓郎氏]/SAFETY JAPAN [コラム]/日経BP社

保険ってそういうものじゃないように思うのですが...”掛け捨て”と呼ばれるように、普通は戻ってこないのが保険じゃないですかね? 払った保険料が必ず戻ってくるというのは保険じゃあないでしょう。

”掛け捨て”という言葉がいみじくも表しているとおり、かって、日本では保険というものに対する人々の理解が乏しく、その結果、預金に近い性格を持つ保険商品が主流となった、という話を聞いたことがあります。社会保険の黎明期に、保険というものの理解に乏しい国民に保険料を納めてもらうため、上のような言い方をしたのですかねえ。

しかし...

”国保”でネットを検索すると、年収300万で50万円の保険料だの、30万円の保険料だの、悲鳴が上がってますね(市町村によって2倍程度の格差があるとか)。上のコラムでも、租税に社会保険料を足すと、年収150万円と3000万円で“税率”が同じになる、と指摘されています。

社会保険料も累進料率にすべきじゃないでしょうか。引き上げ余地はあるはずなのに、低所得者層が定額・定率の負担をしているがために、引き上げられなくなっているように思うのですが。

むろん、税方式にするという案もあるでしょうが、財政的には社会保険方式の方が安定するでしょう。税方式の場合は、政治の動き次第でどうなるかわかりませんし、今の情勢では歳出削減の圧力はかかり続けるでしょうから。

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医療年金問題の考え方―再分配政策の政治経済学〈3〉 Book 医療年金問題の考え方―再分配政策の政治経済学〈3〉

著者:権丈 善一
販売元:慶應義塾大学出版会
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すみません、この本の受け売りです...

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財政状況厳しい折、医療費は増やせない...のか?

医療の充実は財政的にこれ以上不可能で、むしろ高齢者医療の増大で充実どころか後退するんじゃないか

新小児科医のつぶやき - とある質問

天国へのビザ 病院を壊すのは誰だー文藝春秋10月号

門外漢ながら、いくつか思うところを述べたいと思います。

まず、”財政”の意味ですが、これは、「新小児科医のつぶやき」コメント欄でも指摘されていますが、国費負担・公費負担よりも、本質的には、健康保険財政の問題ではないでしょうか。

1) 皆保険といっても、保険者が3,500程度に分立していて、被保険者集団が細かく分かれている。財政にもかなり格差があり、財政的に脆弱な保険者、つまり、低所得・高リスクの被保険者集団を抱える保険者に対し、保険者間での財政調整、国費・公費による補填が行なわれている。

2) 保険料が逆進的であること。被用者保険では、所得のレベルとは無関係に同じ割合で保険料が徴収され、所得が一定レベル以上になれば定額。国保では、保険料の半分は所得・資産によるが、残り半分は所得レベルとは無関係の定額で、被扶養者がある場合は、人数分の負担。

もう一点は、”財政状況が厳しい”といっても、日本の租税・社会保障費の国民負担率(国民所得比)は、先進国中アメリカに次ぐ低さであることです。財務省資料の孫引きですが、日本・2006年度予算、諸外国・2004年実績での比較ですと、以下のとおりです。

スウェーデン:70.9%
フランス:      60.9%
ドイツ:         53.3%
イギリス:      47.0%
日本:          37.7%
アメリカ:      31.8%

結局のところ、これは、国民が医療に必要な費用を負担するつもりがあるのか、価値判断の問題ではあるのでしょう。ただ、国民が医療を必要とするのなら、皆保険の下、社会保険料で負担するのが、最も”お得な”選択肢であることは、多くの専門家が指摘しているところです。

参考:

日本の医療―統制とバランス感覚 (中公新書) Book 日本の医療―統制とバランス感覚 (中公新書)

著者:池上 直己,J.C. キャンベル
販売元:中央公論社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ベーシック 医療問題 (日経文庫) Book ベーシック 医療問題 (日経文庫)

著者:池上 直己
販売元:日本経済新聞社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

経済データの読み方 (岩波新書) Book 経済データの読み方 (岩波新書)

著者:鈴木 正俊
販売元:岩波書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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2007年5月26日 (土)

産科医小説「無過失」

近所の本屋さんで平積みになっていました。

ノーフォールト Book ノーフォールト

著者:岡井 崇
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

大学病院の産科が舞台(!)。医師の過酷な勤務、劣悪な待遇、医療訴訟、病院の赤字経営など、現代の日本医療の問題がすべて盛り込まれている感じです。

一般の書店にこういう本が平積みで並ぶのは、やはり早川書房の力なのでしょうか。「チーム・バチスタの栄光」の一連のシリーズの横につんでありました^^)

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2007年4月 1日 (日)

首都圏医療崩壊ドミノ

「レジデント初期研修用資料」さん、「神奈川県の現状」 より。

  • 病院間のネットワークは、すでに十分に機能している。某大学にネットワークの本部があって、電話一本で救急対応可能な搬送先を紹介してくれる。ところが稼働している病院が減っているため、横浜から問い合わせて搬送先小田原とか、神奈川/東京全滅で、搬送先はヘリで千葉県とか、どんどん遠くなっている
  • 搬送中は医師が同乗する。どの施設も人数ギリギリなので、たとえば往復に3時間かかると、その間病棟をみる人が誰もいなくなったり、外来がストップしたりで病院の機能ががた落ちしてしまう
  • 千葉県の亀田総合は「最後の砦」の一つだが、現場が疲弊して、救急対応がいつまでできるか分からない

「元検弁護士のつぶやき」さん、「東金病院産婦人科、4月から休診」コメント欄より。

No.1 tomo さんのコメント | 2007年03月07日 20:58 
千葉県の外房エリアは、しばらく前から相当な医療過疎になってます。
公立長生病院もずいぶん前に分娩取扱をやめましたし、最近では銚子市立病院も分娩を取り扱わなくなったということです。国保成東病院で細々と分娩を扱っている以外は、旭中央病院と鴨川の亀田総合病院の間(九十九里浜の長さよりも、更に距離があります)に、分娩可能な『病院』がないのが現状です。
数少ない産科診療所は、どこも分娩予約であふれかえっています。いざというときの母胎搬送先は、どちらを向いても救急車で60~90分くらいかかり、県のドクターヘリ搬送も日没後は対応していません。
茂原市などでは、内科外科など一般の二次救急の夜間待機病院がない夜が月の半分程度あり、市外の病院にお願いしている状況のようです。
一応、首都圏であるはずの千葉県ですが、こんな感じです。

No.4 ひみつさんのコメント | 2007年03月08日 00:25
千葉県は外房だけではなく、銚子を基点に利根川沿いの北総地域の産科もきわどい状況になってきています。また、利根川沿いは茨城県に隣接している事もあり、科を問わず3次の病院が少ない茨城県南部からの搬送も受けている状況です。ドクターヘリも茨城県と協定を結んだため越境出動することもあります。

そのせいかどうか分かりませんが、昨年のドクターヘリの出動回数も全国一だったようで、1日平均2回以上飛んでいる数字だったように思います(データ元はイカロス出版のヘリコプター関係の雑誌)
事実、身内がドクターへリポートのある日本医科大学に入院した時、毎日ヘリは飛び立ち、1日3回飛び立つなんて日もありました。このように頻繁な出動を目の当たりにして、千葉県の医療機構の維持だけではなく、ドクターヘリの体制自体もいつまで持つか・・・と不安に思うところであります。

No.6 いなかの内科勤務医さんのコメント | 2007年03月08日 08:56
わたしは実は渦中にある外房の市中病院に勤めているのですが・・・。上記でいうところの「お願いされる市外の病院」です。
成東病院に続き長生病院も内科医辞職、県立循環器センターも内分泌代謝医がいなくなり、当院への患者紹介も増えています。
夜間など、20~30kmの遠路救急車に乗って患者がやってくることもあります。
それがまた単なる胃腸炎だったりして、「帰っていいですよ」と伝えると、「安心しました。ところでここはどこですか?随分田舎のようですけど・・・」と言われます。
茂原は十万人都市なのに、夜間救急が手薄で非常にまずいなあ・・・と思っていましたが、うちの病院も対岸の火事を傍観している立場から転落しそうです。研修医制度のあおりをうけ、春から内科医が4→3人に減り、診療縮小もやむなし、です。

一体どうなってしまうのか・・・。

亀田総合病院は、平成19年4月より小児科診療を縮小とのことだそうです。

2007.03.12 小児科外来を受診される患者さまへ

現在、小児科医の確保に全力で取り組んでおりますが、現状では亀田クリニックの小児科診療枠を減らさざるを得ません。

また、亀田総合病院の救急外来では原則として日曜・祝日の17時以降、および平日の20時以降は小児科医による初期対応が困難なため、小児科を経験した家庭医診療科・総合診療科・救命救急科の医師が担当いたします。

患者さまには待ち時間などでご迷惑をおかけいたしますが、ご協力の程よろしくお願い申し上げます。

「ssd's Diary」さんによると、10名中6名の小児科医師の方々が、3月末でお辞めになるそうです。

ssd's Diary: 国循ほどではないけれど 

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2007年3月 4日 (日)

医療崩壊マップ

二番煎じか、三番煎じか、わかりませんが...

「勤務医 開業つれづれ日記」さんの

【産科・小児科 休止一覧 2 】日本全国 今後の崩壊予定

を地図上にプロットしました。

以下をクリックすると表示します。

医療崩壊マップ

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医療危機とソフトウエア危機

「新小児科医のつぶやき」 のコメント欄に以下の意見が出されていました。元は週間新潮の連載記事だそうです。

医者が減った、絶対数が少ないからと報道していたが、どう考えても納得いかない。今は27万人以上で、1970年ごろは11万人だったが小児科・産婦人科が不足している話など無かった。

これに対する医師サイドの意見は、30年前と比較して、医師の仕事量は格段に増加していて、現在の人員ではとても足りない、というものです。

以下から私の考察です。

医師の仕事量が増えたのはなぜか?

根本的な原因を考えると、やはり医療技術の進歩があるように思います。検査の数・量が増え、発見される疾病が増える、また、治療可能な疾病が増え、治療の数も増える、という構図ですね。

さらに、インフォームド・コンセントなど、治療以外の仕事の増加もあるでしょうが、これは、社会が変化したことの反映であり、社会の変化をもたらしているのは技術の進歩であるように思います。この場合は、医療技術に限らず、科学技術全般の進歩が、ユーザの期待を増大させている面があるかもしれません。

では、現在どの程度の人員が必要なのか?

専門家ではありませんので、わかりません。この場合は、医療政策の専門家が見積もる話になるのでしょうか。医療技術がどの程度の速度で進歩し、必要人員がどの程度の速度で増加するのか、定量的に見積もる必要があると思います。

我がIT業界で有名な法則として、ムーアの法則というものがあります。

ムーアの法則とは、最小部品コストに関連する集積回路におけるトランジスタの集積密度は、18~24ヶ月ごとに倍になる、という経験則である。

"ムーアの法則." Wikipedia, . 25 2月 2007, 15:09 UTC. 4 3月 2007, 00:29

ものすごく単純化して、コンピュータ・ハードウエアの価格性能比は、1年半で倍になる、としてしまっても、ユーザの感覚としてはおかしくないと思います。実際には、ハードの性能が向上すると、ユーザの期待はそれをはるかに上回って増大する、というのが、業界の人間の感覚ですね。

ハードの性能が凄まじいスピードで向上し続けた結果、ソフトウエア開発がこれに追いつかなくなる、という問題が表れました。これがソフトウエア危機です。1960年代の終わり頃から言われ始めた言葉のようです。

The software crisis was a term used in the early days of software engineering, before it was a well-established subject. The term was used to describe the impact of rapid increases in computer power and the complexity of the problems which could be tackled. In essence, it refers to the difficulty of writing correct, understandable and verifiable computer programs. The roots of the software crisis are complexity, expectations, and change.

ソフトウエア危機は、ソフトウエア工学が生まれた初期に使われた言葉。コンピュータの計算能力の劇的な向上の結果、コンピュータが扱える問題が複雑化した状況を指す。より直接には、正しく、理解が容易で、検証可能なコンピュータ・プログラムを書くことの難しさを言う。ソフトウエア危機が起きた要因として、問題の複雑化、ユーザの期待の増大、時代の変化がある。

"Software crisis." Wikipedia, The Free Encyclopedia. 27 Feb 2007, 01:19 UTC. Wikimedia Foundation, Inc. 4 Mar 2007

今でもソフトウエア開発というのは、大部分、プログラマの手作業によって行なわれており、ソフトウエア危機の状況は、継続中であるといって良いと思います。最近では、携帯電話などの組み込みソフトウエアで、ソフトウエア危機が言われていますね。

こうした事態は、表面的には、人手不足の問題として表れます。実際、SE不足、プログラマ不足はかって深刻な問題として言われていましたし、今でも言われています。

しかし、技術が進歩を続ける限り、そして技術の進歩を止めることはできないわけですから、人員は永久に不足を続けます。人が足りないから人を増やせばよい、という単純な問題ではないのは明らかだと思います。

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2007年2月24日 (土)

医療崩壊マインドマップ

医療崩壊のマインドマップ を作成してみました。

以下の画像をクリックすると、Flashで拡大表示します。

medical_breakdown_mm

FreeMindというツールで作成しています。以下のサイトを参考にさせていただきました。

FreeMind活用クラブ - マインドマップをフリーソフトで

Flashは同サイトで紹介されている、freeMindFlashBrowserというツールを使用しています。

[2007/02/25追記]

マインドマップの内容を追加しました。

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2007年2月18日 (日)

我々は福島事件で逮捕された産婦人科医師の無罪を信じ支援します

2006年2月18日、福島県立大野病院の産婦人科医師が、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反で逮捕され、現在公判中となっています。この事件は、医療関係者に非常な衝撃を与え、医療崩壊の象徴的な事件とされています。

本件は、癒着胎盤という、術前診断がきわめて難しく、治療の難度が最も高く、対応がきわめて困難な事例であります。
 起訴状によれば、本件における手術中、児娩出後に用手的に胎盤の剥離を試みて胎盤が子宮に癒着していることを術者である被告人が認識した時に、「(被告人には)直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出術等に移行し、胎盤を子宮から剥離することに伴う大量出血による同女の生命の危険を未然に回避すべき業務上の注意義務があるのに、(被告人は)これを怠り、直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出術等に移行せず、同日午後2時50分ころまでの間、クーパーを用いて漫然と胎盤の癒着部分を剥離した過失により、」とあり、被告人が直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出術等に移行しなかったことと、胎盤の癒着部分の剥離に用いた手段に過失がある、とされています。
 癒着胎盤の予見のきわめて困難である本件において、癒着胎盤であることの診断は、胎盤を剥離せしめる操作をある程度進めた時点で初めて可能となるものであります。したがって、結果的には癒着胎盤であった本例において、胎盤を剥離せしめる操作を中止して子宮摘出術を行うべきか、胎盤の剥離除去を完遂せしめた後に子宮摘出術の要否を判断するのが適切かについては、“個々の症例の状況”に応じた現場での判断をする外なく、それはひとえに当該医師の裁量に属する事項であります。
 また、本件のような帝王切開例における胎盤の癒着部を剥離せしめる手段としては、用手的に行うことだけが適切ということはなく、クーパーをはじめ器械を用いることにも相当の必然性があり、この手技の選択も当該医師の状況に応じた裁量に委ねられなければ、治療手段としての手術は成立し得ません。

本件の転帰に関してはたいへん心を痛め、真摯に受け止めておりますが、外科的治療が施行された後に、結果の重大性のみに基づいて刑事責任が問われることになるのであれば、今後、外科系医療の場において必要な外科的治療を回避する動きを招来しかねないことを強く危惧するものであります。

県立大野病院事件に対する考え,社団法人 日本産科婦人科学会,平成18年5月17日

正直、非医療関係者たる私が、公判中の事件に対し、判断をするのは、なかなか辛いものがあります。しかしながら、病と死は自然現象であり、人として生きる限り避けられないものだと思います。患者および医療関係者は運命に抗しようと努力するものの、不幸な結果となることもあるだろうと思います。本件に関して、医師の方は最善を尽くされたと信じます。

なお、本エントリは、「新小児科医のつぶやき」ブログの「2007-02-07 2.18企画」 の趣旨に賛同するものです。

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「法令遵守」が日本を滅ぼす Book 「法令遵守」が日本を滅ぼす

著者:郷原 信郎
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元検事である著者は、個々の法令を遵守することに固執するのではなく、法令の背後にある社会的要請に応えることがコンプライアンスである、と述べています。また、複雑化している社会実態をみることなく、個別の法令をただ「遵守」しようとする姿勢に対し、疑問を呈しています。

著者の言に従えば、専門家が自らの良心に従い、誠実に職務を行なっても、逮捕されてしまうという世の中は、「法治国家」とはいえないでしょうね。

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2007年2月15日 (木)

できること、できないことを明確にすること

医療危機について、いつも勉強させていただいている、「新小児科医のつぶやき」ブログのエントリ、「2007-02-13 豊岡撃沈と効率化」 のコメント欄で、医師の病院勤務の実態が赤裸々にコメントされています。読んでいて、本気で泣けてきました。

相変わらず、営業のノルマは「受注額」のみだった。「なんでもできます営業」が嘘ばかりついて。コントラクトがなにかも知らない営業が契約書を書いた。だって売上げや利益は関係ないもんね。

大型受注が連続し、経営者は狂気した。
そして1年後、赤字プロジェクトがゆっくりアタマをもたげ始めた。
そして2年後、巨額の受注残は終戦直後の軍票となった。
さらに3年後、不幸なできごとが責任感の強い社員の身に、におきた

熱血!第三営業部-油野達也の「達」観主義-「二つの本音」の間にあるもの(最終エピソード3),2006.05.27

以前から警鐘を鳴らしていたことが現実となってきた。このままではIT業界に優秀な新卒人材が入ってこなくなるだろう、ということで東葛人さんからのトラバを。「35才定年説」から「デスマーチ(死の行進)」なんて基本という劣悪な労働環境までが皮肉にもネット媒体というITを通じて学生に露見し始めたのだ。そしてその原因は一部の「労働省管轄」と呼ばれる派遣型ソフトハウスが作り出したもの。儲け重視で社員の健康や環境など一切を気にしない。法の目をくぐり二重派遣三重派遣、残業カットはあたりまえ。俺も若いときは我慢したんだ、お前も我慢しろ、なんだまだ文句言うか?嫌なら辞めろ、倒れたら辞めろ。お前らの代わりは来年の春に入ってくるから。どうせ新卒に毛が生えたくらいの仕事しかできないくせに。

あーっ!もう。書いてたら涙がでてきた。

熱血!第三営業部-油野達也の「達」観主義-IT業界の人材不足を憂う,2005.11.22

引用ばかりですみませんが、我がITシステム業界のかつての状況・現在の状況を見事に綴った文章であると思います。

できること、できないことを明確にし、できないことはやらない、というのはマネジメントの基本だと思うのです。が、今の日本の経営者(マネジメント)は、これができないんですよね。

そんな日本人に「アメリカでは優秀な人にはちゃんとしたインセンティブを与えないとだめですよ」と言うと、必ず返ってくるのが「アメリカ人は欲張りだ」という言葉である。それを欲張りと思おうと思うまいとかまわないのだが、少なくともそれがここでは常識だ、ということを理解した上でなければアメリカで優秀な人は雇えないし、会社の経営はできない。もちろん、「そんな連中を雇うつもりはない。会社と従業員は運命共同体だ!」という経営方針も日本企業としては許されるのだろうが、そんな考え方ならアメリカの会社など決して買収してはいけない。

Life is beautiful: なぜ日本企業による米国企業の買収がしばしば失敗に終わるのか,2007.02.14

今では日本企業でもそんな経営方針は成り立たなくなりつつあるように思います。「会社と従業員は運命共同体」として、従業員に無理・無茶を強いることができたのは、終身雇用という制度が存在していたからでしょう。終身雇用の下では、従業員には会社と運命を共にする他に選択肢はなかった訳でして。しかし、若い世代を中心に、終身雇用というものは、意識の上から急速に消え去っていっているように思います。

医師の方々の場合は、医局制度が終身雇用制度と同じ役割を果たしていたのですかね。

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2007年2月 5日 (月)

トンデモない米国医療システム(続き)

渡辺千賀氏のブログ・エントリ「On Off and Beyond: トンデモない米国医療システムからイノベーションが生まれるのか」 コメント欄で教えていただいた資料で、米国での医療事故訴訟が医療医療に与える影響について分析したものです。

...
3. Health Care Costs are Increased

The medical litigation system attacks the wallet of every American. Money spent on malpractice premiums (and the litigation costs that largely determine those premiums) raises health care costs. A GAO study in 1994 estimated that malpractice premiums comprise 1% of total health care expenditures; given current spending, this amounts to $14 billion dollars.60

The litigation system also imposes large indirect costs on the health care system. Defensive medicine that is caused by unlimited and unpredictable liability awards not only increases patients' risk but it also adds costs. A leading study estimates that reasonable limits on non-economic damages, such as California has had in effect for 25 years, can reduce health care costs by 5-9% without "substantial effects on mortality or medical complications."61 With national health care expenditures currently estimated to be $1.4 trillion, if this reform were adopted nationally, it would save $70-126 billion in health care costs per year.
...

"Addressing the New Health Care Crisis: Reforming the Medical Litigation System to Improve the Quality of Health Care",U.S. Department of Health and Human Services,Office of the Assistant Secretary for Planning and Evaluation,March 3, 2003

これは「市場原理が医療を亡ぼす-アメリカの失敗」(李 啓充,医学書院,2004)の以下の記述と一致しますね(p.168)。

ディフェンシブ・メディシンによる医療費の「無駄づかい」

ディフェンシブ・メディシンによる「無駄な」医療がどれだけ医療費を押し上げているかについてもいくつかの研究があるが、医療過誤の賠償金に上限を設けるなどの法的対策を講じていない州では、そのような法的措置を講じている州と比較して、医療費総額の五-一〇%が余計にディフェンシブ・メディシンに消費されているのではないかと推計されている。しかし、医療過誤危機に対する法的対策を講じている州でディフェンシブ・メディシンがゼロになるなるということはありえず、ディフェンシブ・メディシンによる医療費の「無駄づかい」は想像もできないほど巨額なものであると考えてよいだろう。

医療事故訴訟の間接的な影響、ディフェンシブ・メディシン(防衛医療)のコストを推計することは非常に難しいでしょうから、何ともいい難い、というところなのでしょうか。

”「改革」のための医療経済学”(兪 炳匡,メディカ出版,2006)にあります、「米国の総医療費上昇率(1940~90年)の要因を定量化・数値化したハーバード大学ニューハウス(Newhouse)教授の研究」に「筆者の仮定と計算を加えた」という推計を紹介したいと思います(p.121)。

米国における医療費上昇の5つの要因と寄与率(1940~90年)

  1. 人口の高齢化 4%
  2. 医療保険制度の普及 17%
  3. 国民所得の上昇 7%
  4. 医師供給数増加 ほぼゼロ
  5. 医療分野と他の産業分野との生産性上昇格差 12%
  6. その他の要因 60%

「その他の要因」が一番大きく、このうち最大の要因が「医療技術の進歩」ではないかと推測されています(p.124-126)。医療事故訴訟も「その他の要因」ですかね。

医療保険については、「医療保険制度の普及」とあるように、医療保険制度が普及した結果、医療需要が増加したことをもって寄与率を出しており、医療保険制度の効率性にまで踏み込んだものではないようです。これも「その他の要因」になるのかな。

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2007年2月 4日 (日)

トンデモない米国医療システム

医療崩壊という言葉は、いくつかの意味で語られているように思います。ひとつは、現在の公立病院を中核とした医療体制の崩壊であり、もうひとつは、国民皆保険制度という医療制度の崩壊ですね。両者は密接に関係していますが、現に進行しているのが前者で、医療費抑制・混合診療解禁がもたらすものが後者でしょうか。後者の目指すところは米国の医療制度だと思われます。

さて、世界一高いとされている米国の医療費ですが。

米国の医療は崩壊寸前である。日本の年金より危機的状況。医療費用は2004年の1年間だけで総額1400億ドル増加した。実に15兆円超だ。一体全体どうしたら、1年間で15兆円も余計に使うことができるのかと頭をひねるばかり。

この根本的問題は「アメリカの医療保険の中途半端な半官半民体制」にある。

アメリカには公的保険と民間保険が混在する。「貧困層」「65歳以上」は公的保険の対象。それ以外の人は民間の健康保険を購入する。民間の保険の選択肢は全国に1000以上もある上、個々の病院や医師は、10を超す保険会社と契約していることもあり、保険求償処理のための事務コストは非常に高い。「救急外来で1時間診療したら、1時間の事務処理作業が発生する」と試算されている。日本と違って事務手続きにとんでもない間違いが起こるアメリカゆえ、「間違い訂正コスト」もバカにならない。

...

医療費負担は企業の競争力にも影響が出ている。週に20時間以上働いた人に医療保険を提供するスターバックスでは、2005年には医療保険費用がコーヒー豆代を凌駕した。退職した社員の医療保険も負担しているGMでは、車1台作るコストに、医療保険費用が1500ドル分が上乗せされる。

「なんて絶望的医療システムだろう」と常々思ってきたのだが、そんなアメリカで最近誕生しているのが、異業種の医療サービス参入による「ミニクリニック」だ。ウォルマート、ターゲットといった大手小売チェーンや、ウォルグリーンなどのドラッグストアチェーンが、次々に店内に簡易クリニックを設置するトライアルを始めているのである。従来型の病院では一回あたり110ドルかかった診療を、40-60ドル程度とほぼ半額で提供。行うのはちょっとした怪我や風邪、予防接種といった簡単な医療行為のみで、少しでも問題がある患者は一般病院に行くように指示する。予約は必要なく、待ち時間があっても、併設店舗内の買い物で時間をつぶすこともできる。保険をもっていればその適用も可能だし、なければキャッシュで支払うこともできる。

「On Off and Beyond: トンデモない米国医療システムからイノベーションが生まれるのか」,渡辺千賀,February 02, 2007

”「改革」のための医療経済学”(兪 炳匡,メディカ出版,2006)によれば、医療費の大部分を占めるのは、いわゆる急性期医療(緊急・重篤の医療)費のようです。これは米国・日本を含む、先進国の医療費で共通の特徴のようですね(p.174)。医療費高騰の原因はこの急性期医療の部分にあると思われ、「ミニクリニック」で軽症の治療・予防を行なっても、医療費抑制にはほとんど繋がらないように思います。

医療保険については、多数の保険が乱立することによる事務経費の増加もありますが、同時にリスクプール(保険加入者数)が細分化されて、保険の目的たるリスク分散の効率が低下することも大きいと思います。これが、国民皆保険がもっとも望ましい形であるとされる所以のようです(p.202)。

米国の医療保険制度が今のままでいいと思っている米国人など一人もいないと言ってよい。GDPの15%にも相当する,世界一高い医療費を払いながら,無保険者が4500万人(2003年,米国国勢調査庁調べ)と,国民の7人に1人にも達する現行制度を容認するなど,それこそ正気の沙汰ではないからだ。全米科学アカデミーによると,医療へのアクセスが遅れるなどで,「無保険」であるがゆえに,毎年1万8000人の国民が命を落としているとされ,事態の深刻さは尋常ではない。

医学書院/週刊医学界新聞 【〔連載〕続・アメリカ医療の光と影(63)(李啓充)】 ( 第2640号 2005年7月4日)

米国でも民主党は皆保険導入を目指しているようですが、大手病院チェーン・民間保険会社が必死に抵抗するのでしょうね。

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2007年1月25日 (木)

医療デスマーチの終焉

医療クライシス:忍び寄る崩壊の足音/1 分べん台で1時間待ち

◇転送先探し、東京でも困難に

 全国で最も病院が多く、医師も集中する首都・東京のベッドタウン、東京都日野市。住宅街の一角に建つ日野市立病院(300床)の市原眞仁院長は、疲れた表情で話し始めた。

 「どこに頼んでも医師が見つからない」

 大学からの医師派遣を次々と打ち切られ、内科や小児科など5科で入院の受け入れ制限など診療を縮小している。4月には脳神経外科が縮小に追い込まれる見通しだ。
...
昨年7月。東京都内の女性(26)は休日の未明、かかりつけの産婦人科で陣痛を抑える点滴を受けていた。妊娠28週での早産が避けられず、新生児集中治療室(NICU)のある病院へ転送が必要になったためだ。

 東京にはNICUを持つ24病院が参加し、出産前後の「周産期」の情報を共有するネットワークがある。うち9病院が総合周産期母子医療センターに指定され、受け入れ先探しも担う。

 しかし、最も近いセンターの杏林大病院(東京都三鷹市、1153床)は「NICUがいっぱいで受けられない」。医師は転送先を探し、女性の横で電話をかけ続けたが、次々と断られた。

 女性は分べん台に乗せられたまま1時間が過ぎた。「医師不足は地方の話。東京は大丈夫」と思っていたが、電話をかける先がどんどん遠くなり不安が増す。「あたし、どうなるの」

MSN毎日インタラクティブ:毎日新聞 2007年1月23日 東京朝刊

ネット上での医師の方々のブログ・討論からは、一月に入ってから急速に医療崩壊が進み、相当深刻な状況にあることが察せられます。

医療崩壊について、以下に私自身の理解したところをまとめて置きたいと思います。

1. 人口あたりの医師数は、1970年以降、OECD平均を下回り続けており、格差は広がり続けていた。医師不足は30年以上前からであり、最近のことではない。特に国立・公立病院に勤務する医師(勤務医)は36時間連続勤務が日常的であるような過酷な労働環境にあった。

2. 1983年の「医療費亡国論」、つまり医療費の増大が国家財政に深刻な影響を及ぼす、という主張から、医療費は抑制され続けてきた。この結果、現在の医療費の対GDP比は先進国中最低レベルにまで落ち込んでいる。

3. 救急医療体制の整備、夜間診療の実施など、国民の要求に応え、医療の充実を図ってきた。しかし、24時間診療(医療のコンビニ化)のように、国民の要求は増える一方であった。

4. 国民が医療の不確実性を理解しなくなり、確実な治療を求めるようになった。これが期待を裏切られた結果としての、医療事故訴訟の増加となって現れた。また、警察に被害届を出す例も増え、懸命な治療の結果にも係わらず不幸な結果となった場合に、医師が逮捕されるという事態が起きた。

5. 以上のことから、医療従事者、特に医師のモチベーションが低下し続け、過酷な勤務に耐え切れなくなり、病院の医療現場を辞す例が続出している。

まとめてみますと、私達国民が医療に対し、予算・人員が極めて不足しているにもかかわらず、過大な要求をし続けた、ということです。

私と同業の方、プロジェクト・マネージャー、SE、プログラマの方々であれば、これがいわゆるデスマーチ・プロジェクトと酷似した構造であることに気づかれると思います。医療現場は少なくとも20年間はデスマーチを続けていたのでしょう。メンバーの大量退職が起きるのは末期に近いとみて良いと思います。

エドワード・ヨードン著「デスマーチ」(第2版, 日経BP社, 2006)では、聖書から以下の寓話が引かれています。

自分のラクダをどんな重い荷物でも運べると自慢していた農夫が、毎日少しずつ多く干し草を積んで町の市場に通っていたが、限界を超えて積んだ少しの藁で、ラクダが骨を折って死んでしまった。

医師の方々の関心は既に医療崩壊後に移っているようです。再建に必要なのは「要求のトリアージ」でしょうかね。

個人的には、現政権に対する世論の風向きが変わった可能性に一縷の望みを繋ぐことにします。まずは四月の統一地方選挙ですね。医療が争点にあがると良いのですが...

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医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か Book 医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か

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デスマーチ 第2版 ソフトウエア開発プロジェクトはなぜ混乱するのか Book デスマーチ 第2版 ソフトウエア開発プロジェクトはなぜ混乱するのか

著者:エドワード・ヨードン
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2007年1月22日 (月)

医療崩壊問題の紹介

[追記 2007/01/23]

<医師不足>公立病院の半数、診療縮小 毎日新聞調査
医師不足などのため、東京都と大阪府内の計54の公立病院のうち、公立忠岡病院(大阪府忠岡町、83床)が3月末に閉院するほか、半数近い26病院で計46診療科が診療の休止・縮小に追い込まれていることが、毎日新聞の調査で分かった。常勤医で定員を満たせない病院は45病院あり、不足する常勤医は計285人に上る。欠員を非常勤医で穴埋めできていない病院もあり、医師不足によって病院の診療に支障が出る「医療崩壊」が、地方だけでなく2大都市にも広がり始めている実情が浮かんだ。

Yahoo!ニュース - 毎日新聞, 最終更新:1月23日3時12分

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日本の医療制度は国民皆保険制度の上に成り立っている。この制度は、全国民による相互扶助と、医師を含めた医療職の両輪がうまく働くことで成立しています。
それが今崩壊しようとしています。
国民は保険料を払わなくなっている(払えなくなっている)。そして医療職では、特に医師が逃散して、国民が医療を受けたくても医師がいなくなり病院がなくなってきています。さらに、国は混合診療解禁という正面からと低医療費政策という絡めてからと両面から、数十年、営々と築いてきたこの制度を壊そうとしている。

日本の医療が崩壊している ある町医者の診療日記

ヤブ医者ブログ: 日本の医療費の実態 で「ブログなどをお持ちで、日本の医療制度に関心のある方は、是非上記ページへのリンクをお願い致します。」とありましたので、紹介したいと思います。

なお、冒頭で紹介したページにあります、パワポのファイルは、無料のPowerPoint Viewer を使えば見ることができます。私も自宅PCにはパワポは入れてないので、ダウンロードしました。^^)

いままでのブログのエントリとはだいぶん毛色が違ってますが。まあ、個人ブログでございますので、深く考えないことにします。

なお、パワポのファイルが使われました、「小松秀樹先生・本田宏先生ご講演」を企画したのは、「内閣府認定NPO法人メディカルコンパス」という団体で、この団体が運営するHPにも、以下の記事がありましたので、紹介しておきます。

最近になり産婦人科医や小児科医が不足し重大な事態になっていることが報道されていますが、実際には産婦人科や小児科だけの問題ではなく日本中の大病院から勤務医が立ち去り始めており、医療全体が急速に崩壊しつつあることをご存知でしょうか。病院の立派な建物にはいつもと変わらず患者さんがあふれ、医師や看護師は今までと変わらない様子で働いていますが、日本の医療制度は現在いくつもの深刻な問題に直面しており、従来どおりの仕組みではもはや成り立たなくなってしまいました。日本の医療はタイタニック号のような状態です。今はまだ波が甲板を洗うような状態ではありませんが、やがて沈没することは避けられない状況です。政府は今後船をまったく別の形に作りかえることを計画しています。

オピニオン: 医療全体が崩壊の危機 

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