2009年11月18日 (水)

企業内「学校」への期待

ものすごく盛り上がっているみたいですね。

プログラマで、生きている: ググるな危険

はてなブックマーク - プログラマで、生きている: ググるな危険

ブログのコメント欄や、ブックマーク・コメントの反応を読んでいて印象的に思ったのが、日本の企業内教育に対する、若い人たち(?)の期待、あるいは要求の高さでして。職業教育というのは、企業内で行なうもの、という意識は根強いといいますか、むしろ近年、企業内教育に対する要求水準が、より高まっているような感すら受けます。

企業内で職業教育を行ない、人材の育成をはかる、というのは、いわゆる「日本型」の雇用システムの特徴のひとつであるそうで。企業が人材の教育コストを多く負担するがゆえ、新卒一括採用、長期勤続の奨励、といった慣行が存在する、という面があるわけです。

新卒一括採用というのは、多くの人間を同時期に大量採用し、まとめて新入社員教育をおこなうことで、一人あたりの教育費負担を下げられる、という面があります。大手企業であれば、 1 社で大量の人員を採用しますので、スケール・メリットは大きいでしょう。また、中小企業でも、同時期に産業界全体が新人研修をやっているわけですから、親会社・協力会社・取引先の研修に、自社の新入社員を参加させてもらう、あるいは、他社と共同で実施する、といったことができます。

長期勤続の奨励、というのは、せっかく教育コストをかけて育成した以上、せめて投資が回収できる程度 − 5〜10年くらい − は勤続していただきたい、ということでしょう。

結局のところ、日本の雇用流動性の低さ、というのは、こうした労使双方の思惑の上に成り立っている面があるわけでして。一部でいわれているような、「解雇規制」とやらを緩和すれば流動化する、とかいうような単純なものでもないのでしょうね。

参考:

一度しか来ない列車: EU 労働法政策雑記帳

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2009年10月22日 (木)

Divide by zero error

間違い探しの問題ですね。

1=2? - 諏訪耕平の研究メモ

「2と1は等しい」 数学界で論議

数学の誤った推論を集めて、分析した書籍というのがありまして:

き弁的推論 ブラジス ほか著 ; 筒井孝胤, 千田健吾訳 -- 東京図書, 1965.9

以前に、 arton さんが紹介していた、 ソビエト連邦の一般向き数学書と、同じシリーズみたいです。

曰く、

ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国文部省の指導書 <<第5学年から第10学年における数学教授法について>> (1952年, 41 ページ) には, <<あらゆるき弁は生徒の論証能力を発展させるための補助手段としてきわめて有効である>> ということが述べられている.

ちなみに、代数の章の一番最初の例題は:

(1) 1 / 4 円 = 25 銭 である。

(2) 両辺の平方根をとって、 1 / 2 円 = 5 銭 。

よって、 1 円の半分は 5 銭である。

というものです。

推論の誤りを見抜く能力というのは、プログラミングでのデバッグの能力に関係ありそうですね。

誤りを調べるときには, 無条件に, 完全にすべてをはっきりさせなければならないことをつけ加えておこう. すなわち, 推論の中で見すごされた誤りはどこにあるか, またその誤りをどのように訂正したらよいかということを, 生徒たちははっきり把握しておかなければならない.

昔、新人さんの書いたプログラムを、当の新人さんと一緒にデバッグしていて、

「何でそんなに疑い深いのですか?」

といわれたことを思い出しました。 いや、何でといわれてもねえ。

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2009年5月24日 (日)

英語 時制の機能

というものの一つに、文の順番とは別に、文意の時系列や因果律を指定する、というものがあるのではないでしょうかね。

木下是雄著『日本語の思考法』 1 のなかのエッセイ 「言語技術教育に取り組む」 で、以下の問題 2 がとりあげられています。

次の文は、事実の記述か、それとも意見か。

私たちは殺人犯人 (murderer) スニドハートが出納係を射つのを目撃した。

解答は、「意見」で、その理由は、「マーダー (murder) というのは殺すつもりで殺すときにかぎって使うことばだが、ピストルの弾丸が出納係に当たったのを見ただけでは故意か暴発かはわからない」とあります。

ところで、私は上の問題中の例文を、最初、以下のように解釈したのでした。

1) 既に何人かを殺したところの、殺人犯人スニドハートが

2) 出納係を射って、新たに犠牲者を増やした

3) のを、私たちは目撃した

つまり、大量殺人の現場に居合わせた人たちの目撃談だととったわけです。

解答をみて、例文は、文の順序と、因果律の順序が異なっている、ということに気付いたわけでして。

つまり、

1) スニドハートが出納係を射ち、

2) 殺人犯人となった

3) のを、私たちは目撃した

わけですね。

日本語の場合、基本的には、文の順序と、文意の時系列順、もしくは因果律は、一致させるのが基本なのではないでしょうか。文の順序と因果律の順序が逆転していますと、上の例文のように、異なる意味で解釈される余地が生まれてくるのではないかと思います。因果律を逆転させるなら、それとわかるように、接続詞などを用いて、表現を工夫しないといけないでしょう。

英語の場合、 12 種類もの時制が存在し、これは厳格に使われるきまりとなっていますので、文の順序を時系列・因果律どおりにする必要は必ずしもないわけですね。文の時制をみれば、その文意をどの順番でとれば良いかがわかりますから。

Now let's get started. We can iteract with Erlang using an interactive tool called the shell. Once we've started the shell, we can type expressions, and the shell will display values.

Joe Armstrong, "Programming Erlang" 3

上の例文は、以前読んだときに、時制がわかりやすい形で使われているので、記憶に残っていたものです。

Erlang シェルの起動は完了していて、 今現在は、 Erlang シェルに式を打ち込める状態にあり、 その後は、Erlang シェルに式を打ちこむと、式の値が表示されるわけですね。


1. 日本語の思考法, 木下是雄著 -- 中央公論新社, 2009.4 -- (中公文庫 ; き-35-1)

2. 理科系の作文技術, 木下是雄著 -- 中央公論社, 2002.6 -- (中公新書 ; 624) でも同じ問題文がとりあげられている。 もともとは、 米国の「国語」の教科書のもの。

3. Programming Erlang : software for a concurrent world, Joe Armstrong -- Pragmatic Bookshelf, 2007

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2009年5月16日 (土)

抽象化のステップ

人間の知識には、3つの基本的な構成要素があります。1つ目は客観的事実(たとえば、そこにいるネコ)、2つ目はネコの観念、そして3つ目は、他人とコミュニケーションをするためにその観念に当てはめた言葉(「ネコ」という名詞)です。

論理ノート D.Q.マキナニー著 ; 水谷淳訳 -- ダイヤモンド社, 2005.3, p.19

人が抽象的な観念を得る方法というのは、おおまかに2つあると思います。

1) 現実世界のアナロジーから新たに観念を得る

2) 既知の観念から新たに観念を得る

1), 2) のステップを繰り返すことで、観念のレイヤを積み重ね、より抽象化の度合いを高めていくわけです。

1) の現実世界のアナロジーというのは、例えば、初めて算術を学ぶ子どもが、自分の指を使って、足し算や引き算をやるといったもの。現実世界の人間の指のアナロジーとして、自然数という観念が獲得されるわけです。

2) は、自然数の除算という既知の観念から、分数という観念が得られるといった具合。こちらの方が、抽象化の度合いがより高いと考えます。現実世界から、自然数という観念のレイヤを得て、その上に分数という観念のレイヤを作り上げているからです。

分数というのは、子どもが初めて出会う、観念から観念への抽象化の例なのかもしれません。

スタジオ・ジブリの映画 「おもひでぽろぽろ」 に、主人公が、分数の割り算を、ケーキの切り分け(か何か、うろ覚え)のアナロジーで考えようとして混乱する、という場面が出てきます。

その場面で思ったのは、ケーキを切り分けるのに、分数は必要ないだろうということ。ケーキの切り分けのアナロジーは、あくまで自然数の除算なのだと思うわけでして。分数を使うことで得られるものがないように思います。

この場合、自然数と現実世界とのアナロジーで分数を考えようとしているのが敗因かなと。そもそも、現実世界にアナロジーを求めるのが間違いかもしれません。分数は自然数という観念から生じたもので、現実世界から直接生じたものではないでしょうから。

プログラミングを始めようとして何度も挫折した。

教えるプロみたいな人に教えてもらっても駄目だったし、尊敬している人に教えてもらったけどやっぱり駄目だった。

才能以前なんだろうな。必死さが足りないって言われた。でも必死になるってどういう事なのか全然判らない。

あと、前教えてもらったことを自宅で復習しても全然出来なかった。

何がわからないのかもわからない。基礎の問題とか出して貰っても判らない。用語や文法みたいなレベルで既に躓くというか。なんというか、「言葉」って何で言葉って言うの?みたいな変な疑問ばかり湧いてきて進まないんだよね。

http://anond.hatelabo.jp/20070523230747

こういう方は、抽象化というものに慣れていないのだと思うのですよね。プログラミング言語の記号の意味というのは、現実世界から遠く隔たったレイヤで定義されているわけです。従って、自分自身の現実世界での経験から、アナロジーを見出そうとしても徒労に終わるだけでしょう。

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2009年5月10日 (日)

中国の「ソースコード強制開示」

中国側は、ソフトの欠陥を狙ったコンピューターウイルスの侵入防止などを制度導入の目的に挙げる。しかし、ソースコードが分かればICカードやATMなどの暗号情報を解読するきっかけとなる。企業の損失につながるだけでなく、国家機密の漏洩(ろうえい)につながる可能性もあるため日米欧の政府が強く反発。日本の経済界も昨秋、中国側に強い懸念を伝えた。

ソースコード開示、中国強行...知財流出の恐れ YOMIURI ONLINE(読売新聞)

技術を盗むためとか、海賊版作るためとか、いわれているらしいですね。

技術盗んだり、海賊版作ったりするのに、別にソースコードなんて要らないんですけどね。

製品を解析すればすむ話でしょう。ソフトウエアの世界では、リバース・エンジニアリングと呼んでいて、通常は、ライセンスで禁止されている行為だったりします。ソフトウエアの解析は、ハードウエアより、はるかに簡単に出来てしまいます。マスコミが好んで使うたとえを使うと、製品そのものがあれば、製品の設計図にある情報はすべて手に入るわけでして。

ま、技術オンチの下衆の勘繰りといったところですか。

ついでに、読売の記事に突っ込んでおくと、ソースみたって、暗号解読はできません。もともと、現代の暗号では、そのアルゴリズム − ソースに書いてあるもの − は広く公開されていますし。逆に、ソースみて暗号解読できるなら、セキュリティ上、重大な欠陥のあるソフトウエアといえますね。

日経は、まともな意見載せてますね。こういうところは、いい意味で「日経らしい」と思います。

メディアがそれぞれのルートで調査を行い、事実関係に基づいて筋の通った分析や報道をするのであれば何ら問題ないが、この件については各メディアが横並びで世論を煽ろうとしているようにしかみえない。「たら」「れば」が充満している報道が何の解決にも繋がらないことはいうまでもない。ましてや世論を誤って誘導しお互いの国益を損うとなればなおさらだ。

本当に中国が悪い? IT製品情報の強制開示に先進国がNO インターネット-最新ニュース IT-PLUS

もう少しまともな憶測をしてみますと。

以前より、外国企業の、「クローズド・ソース・ソフトウエア」 − ソースコード非開示のソフトウエア − を、政府機関が使うということに対する、危機管理上、あるいは安全保障上の懸念は、中国に限らず、日本・欧州各国の政府も示すところであったわけです。

外国企業ってのは、要は米国企業なわけでして。ソフトウエアの分野は、ほぼ米国企業の一人勝ちになってますからね。ま、その米国でも、州政府が「いち企業」のクローズド・ソース・ソフトウエアを使うことに対して、似たようなことが言われたりしているわけですが。

そうしたわけで、政府関係機関は、クローズド・ソース・ソフトウエアではなく、オープン・ソース・ソフトウエアを使うべきである、という主張がなされているわけです。

それで、 Microsoft − 「いち企業」ね − は、 Microsoft シェアード ソース イニシアティブ なるものを提供するようになったわけですね。さすがに、ぬかりがないというべきでしょう。

ガバメント セキュリティ プログラム (GSP) は、世界各国政府の固有のセキュリティ要件に応えるためのマイクロソフトの活動に不可欠な要素です。GSP は、マイクロソフト製品のセキュリティを評価するうえで役立つ情報を各国の政府に提供します。

...

GSP に参加している政府は、Windows 2000、Windows XP、Windows Server 2003、Windows CE、および今回追加された Microsoft Office の最新バージョン、ベータ リリース、および Service Pack のソースコードにスマートカードを使用して無償でオンライン アクセスできます。また、米国の輸出承認などの要件を満たしている GSP 参加者は、暗号コードおよび開発ツールにもアクセスできます。

ガバメント セキュリティ プログラム (GSP) microsoft.com

中国政府も、 政府機関での Linux 利用を進めたりして、この種の主張を熱心にしていたわけですから、今回のIT 機器の認証制度とやらも、この延長線上にあるものなのでしょう。

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2008年12月15日 (月)

Vine Linux 4.2, Webブラウザがとっても重い

Vine Linux 4.2 には、 Web ブラウザ として、 Firefox 2.0 がついているのですが、これの動作がとっても重いのですよね。見ていると、ホスト名の名前解決が妙に遅いです。

「これってキャッシュしてないのでは...」

と思いまして。

とりあえず、ネームサーバをインストールして、問い合わせ結果をキャッシュさせてみることにしました。

#apt-get -y install bind caching-nameserver

とすると、キャッシュサーバとして named がインストールされます。

#service named start

として、 named を立ち上げまして、 /etc/resolv.conf を、

nameserver 127.0.0.1

と、自分自身をみるように変更します。

Firefox を立ち上げると ... えらく早くなりましたよ?

単にクライアントとして使いたいだけなんですけどね。ネームサーバを入れるのはやりすぎのような。

LinuxはローカルにDNSキャッシュを持たないことを初めて知った

Ubuntu Weekly Recipe: 第20回 いろいろなキャッシュ:dnsmasq, cache proxy (gihyo.jp 技術評論社)

さて、どうするのがいいか。

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2008年12月13日 (土)

Vine Linux 4.2, Thinkpad iSeries 1200 1161-91J, IO DATA ETX-PCM

Vine Linux 4.2 を Thinkpad iSeries 1200 1161-91J にインストールしました。 が、 16bit PCMCIA Ethernet カード、 IO DATA ETX-PCM を認識しません。

#/sbin/pccardctl ls
Socket 0 Bridge:    [yenta_cardbus]  (bus ID: 0000:00:03.0)
Socket 0 Device 0: [-- no driver --] (bus ID: 0.0)

Linux Kernel 2.6 から、 PCMCIA デバイスの扱いが変わっているそうで。

Linux Kernel 2.6 PCMCIA

Linux Kernel 2.6 PCMCIA - HOWTO

Linux Kernel 2.6 PCMCIA: cardmgr to pcmciautils HowTo

カーネル・ソース・ツリーを色々探してみると、ドライバ・ソース・コードの device table というものに、 PCMCIA カードの情報を入力すれば良い、とわかりました。

Matching of PCMCIA devices to drivers is done using one or more of the following criteria:

  • manufactor ID
  • card ID
  • product ID strings and hashes of these strings
  • function ID
  • device function (actual and pseudo)

    You should use the helpers in include/pcmcia/device_id.h for generating the struct pcmcia_device_id[] entries which match devices to drivers.

    Documentation/pcmcia/devicetable.txt (git.kernel.org)

ネット上で色々検索した結果から、 IO DATA ETX-PCM のドライバは、 axnet_cs という名前になることがわかりました。現時点で最新と思われる、 Linux Kernel 2.6.27.8 の /drivers/net/pcmcia/axnet_cs.c を覗いてみますと。

static struct pcmcia_device_id axnet_ids[] = {
        PCMCIA_PFC_DEVICE_MANF_CARD(0, 0x016c, 0x0081),
        PCMCIA_DEVICE_MANF_CARD(0x018a, 0x0301),
        PCMCIA_DEVICE_MANF_CARD(0x026f, 0x0301),
        ...
        PCMCIA_DEVICE_PROD_ID12("IO DATA", "ETXPCM", 0x547e66dc, 0x233adac2),
        ...
        PCMCIA_DEVICE_NULL,
};
MODULE_DEVICE_TABLE(pcmcia, axnet_ids);

最新カーネルには、 IO DATA ETX-PCM は、既に含まれているみたいですね。

Vine Linux 4.2 のカーネル・ソース 2.6.16 を覗いてみると、確かにこのテーブル・エントリはありません。この部分を、 Vine Linux 4.2 のカーネル・ソースに追加して、カーネル再構築を行ないました。1

無事認識されるようになりました。

#/sbin/pccardctl ls
Socket 0 Bridge:    [yenta_cardbus]  (bus ID: 0000:00:03.0)
Socket 0 Device 0:  [axnet_cs]       (bus ID: 0.0)

1. Vine Linux Users Manual 15.2. カーネルパッケージのアップグレード

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2008年11月11日 (火)

2兆円バラマキ

確か、瀬戸大橋の総工費が1兆円くらいだったよな、と。

塩飽諸島の5つの島の間に架かる6つの橋梁と、それらを結ぶ高架橋により構成されており、橋梁部9,368 m、高架部を含めると13.1kmの延長を持つ。これは鉄道道路併用橋としては世界最長である。橋梁は吊り橋・斜張橋・トラス橋の3種類を併設。総事業費はおよそ1兆1338億円。

瀬戸大橋 Wikipedia

財団つくって、年利1%で運用すると、毎年 200 億円 使えますね。

2兆円はもっとも有効な使い方をして欲しい (5号館のつぶやき )

定額給付金の自主的返納? (5号館のつぶやき)

日本の政治も末期的な感じですな。

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2008年8月28日 (木)

ゆとり世代というより少子化世代

大学入学者の学力が低下している、という話について。

中央教育審議会 初等中等教育分科会(第59回)議事録・配付資料 [資料2-1] (文部科学省) のページに、「18歳人口及び高等教育機関への入学者数・進学率等の推移」という資料があります。それによりますと、平成19年度の収容力(当該年度の大学・短大入学者数 ÷ 当該年度の大学・短大志願者数)は、 90.5 % となっています。

グラフを見れば一目瞭然なのですが、第二次ベビーブーマー世代に当たると思われる、直近の18歳人口のピークを過ぎたあたりから、収容力がうなぎのぼりに上昇していますね。

Image1

18歳人口と大学入学者数を、直近のピークである、平成4年度から抜き出しますと、以下のとおりです。

年度 (1)18歳人口 万人 (2)大学入学者数 万人 (2) ÷ (1)
平成 4 205 54 26.3%
平成 5 198 55 27.8%
平成 6 186 56 30.1%
平成 7 177 57 32.2%
平成 8 173 58 33.5%
平成 9 168 59 35.1%
平成10 162 59 36.4%
平成11 155 59 38.1%
平成12 151 60 39.7%
平成13 151 60 39.7%
平成14 150 61 40.7%
平成15 146 60 41.1%
平成16 141 60 42.6%
平成17 137 60 43.8%
平成18 133 60 45.1%
平成19 130 61 46.9%

平成4年度の18歳人口から、平成19年度のそれをみますと、 63.4% まで減少しています。対して、大学入学者数は、むしろ若干増えていますね。この間に大学の定員が削減されたという事実はないかと思います。

さて、考察を簡単にするため、単純化して以下の仮定をおきます。

  • 上記の間、大学入学者集団の学力に変化はなかった
  • 上記の間、18歳人口は 6割に減った
  • 上記の間、大学の定員数に変化はなかった

そうしますと、まず1番手の大学については、上位 6割の層が、かっての大学入学者と同レベルの学力を有しており、下位 4割の層は、以前であれば、2番手の大学の上位 4割を占めていた層であると考えられます。

2番手の大学については、以前の 上位 4割の層は、ワンランク上の、1番手の大学へといき、以前の下位 6割の層が繰り上がって、上位 6割を占めます。下位 4割は、以前であれば、3番手の大学の上位 4割を占めていた層であると考えられます。

同様に、3番手、4番手 ... と続きます。

つまるところ、大学入学者全体の学力レベルは以前と同じであっても、個々の大学から見た場合には、明らかに入学者の学力レベルは低下しているというわけです。その原因はといえば、少子化の急速な進行にもかかわらず、大学の定員数を維持し続けたことでしょう。

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2008年8月 1日 (金)

工学部の先生による教育問題の見方

学力低下は錯覚である Book 学力低下は錯覚である

著者:神永 正博
販売元:森北出版
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工学部の先生が、ゆとり教育、学力低下、理工系離れ、文系理系の待遇差について論じた本。出版元が森北出版なのも異色な感じですね。

この先生のお考えが、私が漠然と考えていたことと、ほぼ一致しているのが驚きでした。統計データを引きつつ、以下のような見解を示されています。

  • いわゆる「ゆとり教育の弊害」は、それを裏付ける証拠がない。
  • 「分数のできない大学生」など、大学生の学力が低下しているのは事実。しかし、少子化の進行にともない、18歳人口が急速に減少するなかで、大学の定員はむしろ増加しており、以前なら大学に入学できなかった層が入学していることで説明できる。
  • 「理工系」離れが言われているが、現実に起きているのは、「工学部離れ」であり、理系志望の人間自体は増えてもいないが、減ってもいない。理、医薬歯系へとシフトしている。

といったあたりは、文部科学省の統計データを眺めたりして、そういった傾向が見えないか、などと私も考えていました。

一方、

  • 文系の方が理工系より優遇されている、というが、データからみて、そのようなことはない。

というのは、少々意外な話でしたね。世間に流布する俗説というのはあてにならないものです。

この本の一番最後に、義務教育課程に対する提言がなされているのですが、この点に関しても全く同感です。国語・英語・数学の教科を徹底的にやるべき、とのご意見です。

筆者は、義務教育段階では、基礎教科を、時間をかけて徹底的に学ばせるべきだと思っている。学習には個人差があるので、なかなかわからない子もいるだろう。しかし、わからないからといってここで学び損ねると、後で取り返すのに大変な苦労をしなくてはならない。

【略】

なにがなんでも身につけてもらわなければならないからこそ義務教育なのである。

「詰込み教育」のアンチテーゼとしての「ゆとり教育」であれば、あれもこれもと広く浅くやるのではなく、基礎を徹底してやるのが本来の姿ではないか、と思うのですけどね。

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